Karikomu

「かりこむ」は、八雁短歌会員を基とした短歌を学ぶ場です。

2021-01-01から1年間の記事一覧

本日の一首 ー 前川緑(一)  おさらい編

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ 逐語訳:束ねている春のすみれの花を手に持って野道を泣きながら歩いていると、バスが過ぎていった。 解釈:束ねたるすみれとあるので、摘むのに時間が経っていることが分かる。ずっと泣きながら…

本日の一首 ー訂正版 前川緑(一)

束ねたる春すみれ手に野の道を泣きつつ行けばバスすぎ行きぬ ゆふぐれの光を劃(くぎ)る窓のなかに草や木のあり靑き葉さやぎ 李の花に風吹きはじめ透きとほりたる身をぞゆだねる 野も空も暗い綠のかげらへる景色みるごと君を見はじむ 山の手の小公園ゆ望み…

選歌するということ

先日のオンライン歌会には、草林集から3人の方々がおいでくださった。私はいたく感じ入ったのだった。歌評の着眼点が、わたし(たち)と違う。言葉、文法、用例の確かな知識の上にご自身の考えや感じ方があって、言葉に忠実だ。知識を振りかざしたり、議論に…

本日の一首 ー 小田鮎子

玄関をひとたび出れば見しことのなき顔をして夫が歩く 襟立てて銀座の街へ消えてゆく夫追いかけて見たき日もある 途切れたる会話の間(あい)を縫うように公園脇を電車が走る 子を寝かせブラックコーヒー飲みながら取り戻したきことの幾つか 母でなくとも妻…

本日の一篇 ー 尾形亀之助

あるひは(つまづく石でもあれば私はそこでころびたい)自序 何らの自己の、地上の権利を持たぬ私は第一に全くの住所不定へ。 それからその次へ。 私がこゝに最近二ヶ年間の作品を随処に加筆し又二三は改題をしたりしてまとめたのは、作品として読んでもらう…

本日の歌 ー 追悼 岡井隆

岡井 隆(おかい たかし)1928年(昭和3年)1月5日 生- 2020年(令和2年)7月10日 没。 世間がこれだけ騒いでいるのだから、私も学ぶに及ばずとも、触れてみたいとかねてより思っていた。その時期が来るのを待っていた。そして、今朝、新聞紙上に阿木津英氏…

本日の一篇 ー ウルベント・サバ 須賀敦子訳

ミラノ 石と霧のあいだで、ぼくは 休日を愉しむ。大聖堂の 広場に憩う。星の かわりに 夜ごと、ことばに灯がともる。 人生ほど、 生きる疲れを癒してくれるものは、ない。 ウルベント・サバ 須賀敦子訳 須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』 文藝春秋 (1995) …

本日の一篇 ー 太宰治

勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に…

本日の一首 ー 平井俊

ふれようと思えば届く距離にいる深夜のマクドナルドに座り 平井俊『角川短歌』角川文化振興財団(2018・11月号) p60 <メモ・感想> 第64回角川短歌賞の次席であった、『蝶の標本』より、一番良いと思った歌をあげた。なぜこの歌にしたかと言うと、歌を起点…

本日の一篇(ニ) ー 宇野千代

何を書くかは、あなたが決定します。しかし、間違っても、巧いことを書いてやろう、とか、人の度肝を抜くようなことを書いてやろう、とか、<略>決して、思ってはなりません。日本語で許された最小限の単純な言葉をもって、いま、机の前に坐っている瞬間に…

本日の一篇(一) ー 宇野千代

ものを書こうとするときには、誰でも机の前に坐る。書こうと思うときだけに坐るのではなく、書こうと思ってもいないときにでも坐る。<略>或るときは坐ったけれど、あとは忙しかったから、二、三日、間をおいてから坐るというのではなく、毎日坐るのです。…

本日の一首 ー 玉城徹

学ぶこと第一。第二は作ることぞ。人に知られむは末の末かも 玉城徹 『玉城徹全歌集』 いりの舎 (2017) <メモ・感想> 最近、更に、ぼやっと生活をしてしまっている。掲出歌は、私がちょうど眼を痛めて、焦りに焦っていた際に、阿木津英氏より知らされた…

本日の一首 ー 玉城徹

石をもて彫りたるごときはくれんの玉のつぼみの恋ほしきものを チュリップのま白き花を露一つすべりて落つと見し日はるけし 松原に遊歩の道のとほれるに人ふたりありてやぶ椿の花 三女性おじぎうやうやしくパフェ退治見れば若からず美しからず 玉城徹 『玉城…

第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇

第七十九回 『東京紅橙集』 吉井勇<選歌二首>(全三〇七首より) 臙脂(えんじ)の香(か)おしろいの香(か)もなつかしや金春湯(こんぱるゆ)より春(はる)の風(かぜ)ふく 栄竜(えいりう)がゆたかなる頬(ほ)に見入る(みいる)ときはじめて春(…

第七十八回 『翡翠』片山広子

第七十八回 『翡翠』片山広子<選歌三首>(全三〇〇首より) わが指に小さく光る青き石見つつも遠きわたつみを恋ふ あめつちのちひさきことのみが我が黒き眼にかろく映りぬ くれなゐのうばらの花に白う咲けとのたまはすなりせまきみここころ 〈メモ・感想〉…

本日の一首 ー 喜多昭夫

君はいつもわき目もふらず立ちあがるコーヒーカップの縁を拭ひて 喜多昭夫『哀歌ー岸上大作へ』八雁・第56号 (2021) <メモ・感想> 「八雁」第56号の中より抜粋するにあたり、一番分かり易く、一番思いやりの感じられる一首を目指して今号を読んだ。『哀歌…

本日の一首 ー 吉田佳菜『からすうりの花』

『はなぶさむら』より引用 (文責・関口) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 〈選歌十首〉 吉田佳菜 『からすうりの花』 国際メディア(2015) 久びさに訪ねくる人待ちわびて部屋ごとに置く水仙の花 花びらはわが頬に髪に乱れ立ちつくしたり…

八雁10首選(2021年1月号)

2021年1月号の八雁から十首選んで覚書。 婚前のあの日義母よりわたされし黒水牛の印鑑は岡 (岡由美子) 結婚前に、新姓の黒水牛の印鑑を義母からもらうということの意味するところ、言外のメッセージがひしひしと伝わってきた。 風わたる外階段のつづら折り…

本日の一首 ー 石田比呂志『冬湖』

鳥だって虫だってあの魚だって自分の居場所くらい知ってる 夜半覚めて時計の針を確かめてお臍の穴を覗きて眠る 今日もまた雀がしたり顔に鳴く短歌単純化、短歌単純化 短歌とはよんでくださるあなたへの灯ともしごろの愛の小包 飛ぶ鳥は必ず堕ちる浮く鳥は必…

梅を詠んだ歌

梅が咲き満ちている。昼は白や紅に樹全体がけぶり、鳥が鳴き集う。夜は濃く甘い香りが漂い、心惹かれる。詠いたいのに、どこから詠っていいかわからない。梅という題材は、どのように詠まれてきたのだろう。 我がやどの梅の下枝に遊びつつ鶯鳴くも散らまく惜…

短歌覚書(工藤貴響『八雁』)

かなしみの向こう側なる冬空に機体は白きひかりを走らす 工藤 貴響『八雁』2021年1月号 【逐語訳】 かなしみの向こう側にある冬空に機体は白いひかりを走らせる 【鑑賞】 かなしみがあって、その向こう側に冬空がある。晴れているのだろう、そこにきらりと…

本日の一首 ー 島田幸典『no news』

婚控えやさしき女友だちは襟の糸屑さらりと摘めり 島田幸典『no news』(2002)砂子屋書房 <メモ・感想> 良い歌を、自分が良いと思える歌を、この場でお伝えしたくここまで来た。しかし、寂しかったことがある。それは、短歌を始めてから、短歌以外の、主…

歌集覚書 髙橋則子『窓』

ひろげたるつばさの内らほの白く下り来るなり春のくもりを 来て動くこの単純を見むと寄る窓ちかぢかと地面に雀 目覚めゆく眼につぎつぎに啼きながら雀枝につく夢の如くに いくたびと思ひまたおもひ亡き人のことばたちくる活きいきとして ひともとのとほき青…

本日の一首 ー 髙橋則子『窓』

遅き日の曇る日くれてわれひとり居るこの部屋に菜の花零る 柔らかき若葉動きて鉛筆を削りつつゐるわが朝の窓 人のなきあとを生きつぎわが胸に残る声音は暗鬱のこゑ 星一つ月をさかりて白雲をさかりかがやく風のすずしさ わが顔に似合はぬ帽子いつかはとおも…

本日の一首

手相見の前に未来の在りし日や 鏡に春の口紅をひく 八雁会員O氏『現代短歌』No.83(2021)現代短歌社 p128 <メモ・感想> 八雁会員O氏の歌である。読者歌壇にて久々湊盈子氏の特選に入っていた。歌評には「一字あけたところがミソで、作者は口紅を引いて鏡…

本日の一首 ー 俵万智『サラダ記念日』

長江を見ていたときのTシャツで東京の町を歩き始める 「人生はドラマチックなほうがいい」ドラマチックな脇役となる ハンカチを忘れてしまった一日のような二人のコーヒータイム 俵万智『サラダ記念日』(1986)河出書房新社 <メモ・感想> 「生きることが…

第七十七回 『無花果』若山喜志子

第七十七回 『無花果』若山喜志子(大正四年)<選歌七首>(全四六八首より) あなやこはゆく手もはても薄氷(うすらひ)のわが世なりけり何ふむべしや この家のぬちわれがうごくも背(つま)がうごくも何かさやさやうたへる如し まづしくあらば刺して死な…

本日の一首 ー 黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』

手に取れば冑蟹(かぶとがに)は身を反らしたり海立つとき吾もをさなし 見え難き世界の罅をさぐるごと妻はテープの切れ口さがす 眠りゐる妻と児を部屋に鎖(とざ)したる昧爽の鍵にぶく光るも やよひはやくも花ちりそむを助言など無視せよといふ助言たまはる…

第七十六回 『春の反逆』岩谷莫哀

第七十六回 『春の反逆』岩谷莫哀(大正四年)<選歌六首>(全四ニ三首より) 帽子をかぶりいそいそとして家を出でぬさていづかたへ足をはこばむ 何となう心うれしきこの寝ざめ春は障子をおとづれにけり みづからにつらくあたりて見むかともふと思ひけり蟬…

本日の一首 ー 村山寿朗

この長き坂を登るに自転車を降りて押す日がやがてくるべし 村山寿朗(2001年<牙>11月号) 石田比呂志 ここに歌ありー<牙>ー作品鑑賞(2003)松下印刷 元来は生粋の出不精である私。転居して手狭な住処に移り、コロナ太りも気になって、午前中は散歩をす…